解析秘話

解析秘話vol.2

限られた遺髪からDNAを読み取るための挑戦。

手塚治虫が愛用していたベレー帽から取り出した遺髪160本。私達はこの限られた本数から、手塚治虫という人物を読み取る必要がありました。研究員は、DNA抽出の条件検討を行うために、実際のサンプルを使うことができないので、まず自身や研究所の人から髪の毛を採取しました。採取した様々な種類の髪の毛(細い髪、太い髪、染色した髪、抜けてから時間が経過した髪など)や最適な本数について4種類の市販キットを使って、比較検討を行いました。4種類のキットでDNA抽出した後、遺伝子が検出できるか確認するために、まずはミトコンドリアDNAの遺伝子を増幅することにしました。

ミトコンドリアDNAの遺伝子を最初のターゲットにした理由は、
1)環状DNAで核DNAよりも安定であることと、
2)コピー数(同じ塩基配列の遺伝子の数)が圧倒的に多いことにあります。
つまり、最も検出しやすい遺伝子でとにかく遺伝子を検出できるかを確認することから始めました。その結果、染色した髪以外では検出可能で、ミトコンドリア ハプロタイプ(祖先解析)も決定できました。第一段階クリアです。

ミトコンドリア ハプロタイプと言えば、1987年にアメリカ・ネイチャー誌に発表された、レベッカ・キャン博士らによる「ミトコンドリア・イヴ論文」がよく知られています。ミトコンドリアDNAの特性を用いて母方の家系を辿ると「ミトコンドリア・イブ」と呼ばれる「ある一人の女性」に辿りつくと言われており、この女性こそが人類の現生人類の最古の共通祖先にあたると考えられています。人類の共通の母「ミトコンドリア・イヴ」の子孫たちは、長い年月の中で ミトコンドリアDNAの突然変異を繰り返しながら、様々な人種に枝分かれしていき、 現代の世界の人々はおよそ35人の母親の子孫であるといわれています。日本人の95%はその中の9人が起源とされています。

その後、核DNA遺伝子の検出も試み、成功しました。そして、これらの結果を比較すると、髪の毛20本で解析すると最も良好な結果を得ることができました。検討用のサンプルでは意外とすんなりと結果を得ることができましたが、実際の遺髪でもうまくいくのでしょうか。

次回はいよいよ、手塚治虫の実際の遺髪を使って解析に挑戦したお話です。お楽しみに。

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